CRM導入

CRM要件定義の作り方(ヒアリング項目テンプレ付き)

新里 考司

CRM要件定義の概要図
目次

CRM導入プロジェクトで最初に立ちはだかる「要件定義」。
「何を決めればいいかわからない」「ベンダー任せにして失敗したくない」という悩みをお持ちではないでしょうか。

要件定義とは、自社のビジネスプロセスと目標に合ったCRMシステムを設計するプロセスそのものです。

本記事では、CRM要件定義の全体像から、詳細なヒアリング項目、作成すべき成果物、そしてよくある失敗事例まで、プロのノウハウをすべて公開します。
特に「ヒアリング項目テンプレート」は、そのまま社内インタビューで使える実践的な内容になっています。これを使えば、中小企業でも自社主導で質の高い要件定義が可能になります。

CRM要件定義とは?まず全体像を把握しよう

CRM要件定義は、以下の流れで進めます。各ステップが成果物(ドキュメント)と紐付いていることが重要です。

全体ロードマップ:5つのステップ

  1. 目的・KPI定義
    CRM導入の目的を明確化し、成功指標(KPI)を設定します(例:リード対応速度短縮、商談化率向上など)。
    成果物:プロジェクト目的・KPI定義書
  2. 現状業務プロセス整理 (As-Is)
    部門横断で現行のフロー(リード獲得~契約~フォロー)を洗い出し、課題を可視化します。
    成果物:現状業務フロー図
  3. 要件整理 (業務→機能→非機能)
    業務ニーズをシステム機能要件や非機能要件(品質・制約)に落とし込み、優先度(MoSCoW)を付けます。
    成果物:要件一覧表
  4. 設計(データ・運用・移行)
    データモデル、権限、運用ルール、データ移行計画などを詳細に設計します。
    成果物:データ定義書、権限マトリクス、移行計画書など
  5. 受入テスト (UAT)
    定義した要件通りに機能するか、実際の業務シナリオで検証します。
    成果物:UATシナリオ・テスト結果

要件ヒアリング項目テンプレート

「何を聞けば要件が決まるのか?」に答えるためのヒアリング質問集です。
カテゴリ別に質問を用意しました。これらを活用して、経営層から現場担当者までヒアリングを行ってください。

A. 事業/目標に関する質問

Q1: 今回CRMを導入する一番の目的は何でしょうか?
目的:プロジェクトのゴールと経営課題を明確化する。
成果物:目的・KPI定義書
Q2: 具体的に改善したい業務指標やKPIはありますか?
目的:成功の測定基準(リード商談化率、顧客満足度など)を設定する。
成果物:目的・KPI定義書
Q3: 本プロジェクトの対象範囲(スコープ)はどこまでですか?
目的:対象部門や業務範囲を定義し、スコープクリープ(範囲の肥大化)を防ぐ。
成果物:要件一覧、プロジェクト憲章

B. 現状業務プロセス(As-Is)に関する質問

Q8: 現在の営業/顧客対応プロセスを、リード獲得からフォローまで一通り教えてください。
目的:現状フローを可視化し、ボトルネックを特定する。
成果物:現状業務フロー図
Q11: 現状プロセスで頻発している課題やミスはありますか?
目的:対応抜けや属人化などの痛点を洗い出す。
成果物:課題一覧表
Q15: 各ステップの所要時間やリードタイムはどの程度ですか?
目的:現状の作業時間を把握し、自動化による短縮目標を立てる。
成果物:As-Isプロセス分析

C. 管理対象データ(データモデル)に関する質問

Q16: 管理すべきデータの対象(オブジェクト)は何ですか?
回答例:法人、担当者、案件、見積、契約、活動履歴、問い合わせチケットなど。
成果物:データモデル図
Q18: 必須入力とすべき項目はどれですか?
目的:データ品質確保のため、絶対に欠かせない項目を特定する。
成果物:データ項目定義書
Q19: 重複したデータ(名寄せ課題)は現在発生していますか?
目的:データクレンジングや重複排除ルールの必要性を判断する。
成果物:データ移行計画書

D. 営業/CSのステージ定義に関する質問

Q23: 営業プロセス上のステージ名称と定義を教えてください。
回答例:見込み(Prospect)→提案(Proposal)→交渉(Negotiation)→受注(Closed Won)など。
成果物:セールスプロセス定義書
Q24: 各ステージへの進捗条件や判断基準は何ですか?
目的:次のフェーズに進むための完了条件(Exit Criteria)を明確にする。
成果物:セールスプロセス定義書

E. 自動化/通知(ワークフロー)に関する質問

Q29: 現在手作業で行っている反復業務やルーチン作業は何ですか?
目的:自動化の候補(定期フォローメール、会議用集計など)を洗い出す。
成果物:ワークフロー要件一覧
Q30: どのようなトリガーで、どんな処理を自動実行させたいですか?
例:「問い合わせ受信→即時Slack通知」「契約30日前→リマインドメール送信」など。
成果物:ワークフロー定義書

ポイント
上記以外にも、F.レポート/KPI、G.他システム連携、H.移行/データ品質、I.権限/セキュリティ、J.運用/定着に関する詳細な質問項目があります。
全体で70問以上のテンプレートを活用して、抜け漏れのない要件定義を目指しましょう。

要件と成果物の対応表

ヒアリングした内容は、適切なドキュメントに落とし込む必要があります。

要件カテゴリ 主な成果物
ビジネス目的・KPI プロジェクト目的・KPI定義書
業務プロセス As-Is / To-Be 業務フロー図
機能/非機能要件 要件一覧表、非機能要件定義書
データ要件 データ項目定義書、データモデル図
ステージ/プロセス セールスプロセス定義書
移行・連携 データ移行計画書、連携仕様書
運用・テスト 運用ルールガイド、UATテストケース

失敗例トップ5:ここだけは気をつけよう

  • 目的・KPI不明瞭による迷走
    ゴールが決まっていないと、不要な機能追加でプロジェクトが肥大化します。最初に「成功の定義」を合意しましょう。
  • 要件盛り込みすぎによる現場混乱
    「あれもこれも」と詰め込むと、入力負荷が増えて現場が使いません。MoSCoW法で「Must(必須)」に絞りましょう。
  • ユーザー入力負荷過多
    現場の声を無視した設計は定着しません。UI/UXを重視し、入力項目は最小限に抑えるのが鉄則です。
  • ガバナンス不在によるシステム崩壊
    運用ルールや管理者を決めないと、データが汚れて使い物にならなくなります。運用体制も要件の一部です。
  • データ移行・連携の不備
    テスト不足で本番稼働後にデータ不整合が発覚するケースです。十分な移行テストとリハーサルを行いましょう。

業種別カスタマイズ例:施設運営ビジネスの場合

会場予約やイベント運営では、汎用的なCRM機能に加えて、業界特有の要件が必要です。

ケース1:イベント会場の予約管理

必須項目:イベント希望日時、参加人数、会場レイアウト、利用備品。
プロセス:問い合わせ → 仮予約 → 内見 → 本予約 → 施行 → 請求。
自動化の鍵:仮予約期限の自動アラート、イベント1週間前のリマインドメール自動送信などで、対応漏れを防ぎます。

ケース2:婚礼・宴会の長期案件管理

特徴:初回接客から当日まで半年以上の長期戦。詳細な打ち合わせ記録の蓄積が重要。
要件:新郎新婦やゲストのアレルギー情報、演出プラン詳細の管理。顧客ポータルと連携し、新郎新婦が直接入力できる仕組みも効果的です。

まとめ

CRM導入の成功は、システム選定の前に「要件定義」で決まります。今回ご紹介したステップとテンプレートを活用して、ぜひ自社に最適なCRMの青写真を描いてみてください。

「システムに合わせて業務を変える」部分と「自社の強みとして残すべき業務」を見極めることが、成功への第一歩です。

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